2013/03/06 Wed
第17回ワークショップ「現場から考えるソリューション・バンク論 – ヘルスサービスデリバリー改革の事例から」議事録(2013年2月6日)

「現場から考えるソリューション・バンク論 - ヘルスサービスデリバリー改革の事例から」
世銀ではキム新総裁の下、圧倒的な知識を集約する「ナレッジ・バンク」から、実際に途上国の課題解決を助けて結果を出せる「ソリューション・バンク」への転換が叫ばれ、改革が進んでいます。その一環で、政策を語るだけでなく、貧困層に実際に基礎サービスを効果的に届けるためのノウハウをこそ体系化するべきだとの考えから、”Sciences of Delivery”を確立するべきとの機運が高まっています。ともにもっともで是非達成したい目標ですが、では実際にどういうことをやるべきで、そのためには世銀がどうなる必要があるのでしょうか。私はサービスデリバリーの改善のあり方について、拙いながらもJICA、ハーバード/USAID/エチオピア財務省、UNDP、マッキンゼー、世銀と色々な組織、業種、業界を渡り歩きながら自分なりに考えてきました。今回は、それらの経験を生かして現在取り組んでいるナイジェリアの保健医療サービスデリバリーの改善を事例として使いながら、デリバリー改善の方法と、それを支える「ソリューション・バンク」のあり方について、皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。

【略歴】
馬渕俊介(まぶち しゅんすけ) 
国際協力機構(JICA)社会開発部プロジェクト担当、エチオピア財務省/USAIDアドバイザー、UNDP BOPビジネスアドバイザー(インドネシア)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、南アフリカ)マネージャーを経て世界銀行入行。マッキンゼーで得た民間経営のノウハウを生かしてナイジェリア、リベリアの保健医療システムの改革に取り組む。東京大学教養学部卒業(文化人類学)。ハーバードケネディ行政大学院にて公共政策修士(学長賞)、ジョンズホプキンス大学にて公衆衛生修士( ソマー奨学生、「最も貢献した5人」選出)取得。ジョンズホプキンス大学博士課程在籍中。東北大震災の復興を支援する海外向け寄付プラットフォームDonate Japan(http://donate-japan.com/)立ち上げ。


• 人口の大きいナイジェリア。アフリカにいる人口の約5人に1人はナイジェリア人が占めるほどなので、ナイジェリアでの成果はインパクトも大きい。例えば、ナイジェリアは、世界の乳幼児と母親の死亡数の10%の10%前後を占める。

• ナイジェリアのヘルスセンターには訪問者がいない。なぜなら薬や必要な設備がない。衛生状態が悪い。ヘルスワーカーも不在のことが多い。結果、コミュニティの信頼を失っている。

• 決してインプット(資金、ヘルスワーカー)が足りないわけではない。原因として考えられるのは、以下のようなヘルスシステムの問題:
o 連邦、州、地方政府のコーディネーションが不足
o アカウンタビリティが不明確
o 組織の結果に対するインセンティブがない

• そこで、パフォーマンス・結果ベースで資金提供を決定する仕組みに変革。すぐにPotential Game Changerといわれる程の大きな改善が見られたが、まだ必ずしもパフォーマンスの上昇が満足いくレベルではない。

• 問題を分解して見てみると、ヘルスセンターによってパフォーマンスのばらつきが大きい。そのばらつきの原因として考えられるのは、各ヘルスセンターのマネジメント能力の違い、センターを利用するコミュニティの状況の違い、行政サポートの質と量の違いなど。

• 元々10%の訪問率だったところから9ヶ月で100%の訪問率を達成した僻地のセンターが何をしたか:必要な薬の購入、トイレ等施設の改善、週7日24時間オープンの実現、地元の宗教関係者・有力者の巻き込み、妊婦等市民のニーズに応えるサービスの提供等。センターのマネジメント能力が大きい成功要因と考えられる。

• この分析を深めて大きい改革のレバーを定め、いかにダイナミックに手を打てるかに、世銀のソリューション・バンクとしての真価が問われる。

• ナイジェリア政府は、この結果ベースのアプローチ(Result based financing)を国全体にスケールアップすることを目指した「Saving One Million Lives」というイニシアチブを立ち上げた。速いスピードで動く政府に対し、世銀が効果的なアドバイザー、サポート役として果たしてどんな役割を果たせるのか。

• 世銀がソリューション・バンクになれるかどうかは、Evidence-based Design(証拠・データに基づいたプロジェクト設計)、Agile/flexible implementation(迅速で柔軟な実行)、Structural learning(構造的・建設的な学び)のサイクルをいかに速くまわせるかが鍵。特に、Implementationを強化することが肝要。

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【質疑応答】
• Supply-sideの改善方法は分かったが、Demand-sideの問題は?

• ナイジェリアで子どもが亡くなる原因は出産時のcomplication、下痢、肺炎、マラリアなど防げる問題が多い。ただ、そもそもヘルスセンターに来ないのはなぜか。そもそも信頼がなくなっていたほかに、交通費、医療費が出せない問題。また、伝統的療法の地元の人の方が信頼されている、男性が「行くな」と決定権限を持っている等の問題もある。

• 同様のアプローチが全国展開しているルワンダとナイジェリアの違いは?

• Performanceベースにすると一気に改善するのは、共通の傾向。ナイジェリアはヘルスセンターのスタッフの採用に縁故採用が多いので、ばらつきが出やすい面はある。また、ナイジェリアは国のエリートは非常に優秀だが中間が欠けている一方、現場に関しては国によってそんなに差異がない。ヘルスセンターをPerformanceベースにするには、それをサポートする官僚システムの迅速さが問題になる。ルワンダはシンガポールのように優秀な人材が多く、中央政府のコントロールが強いので、参考にならない、という人は多い。規模が大きく官僚システムに困難が多いナイジェリアでのこのアプローチを成功させられるかどうかが、世銀にとっての大きなテストになる。

• Performanceをどうやって測るのか。測る人のスキルの問題や、腐敗の問題は?

• 測るのは、難しいものと簡単なものがある。簡単なのは訪問患者数等。難しいのはサービスの質。評価する側のキャパシティも必要になる。腐敗を防ぐには3つ仕組みがある。第1はチェックする組織を政府から独立して持つ。外部から独立したチェック役を配置すると持続性の問題を取り上げる人が多いが、民間企業でも監査は外部者が行う。要は政府がその価値を認識して予算をつけ続けるかどうかの問題。第2は、スポットチェックで政府が報告の正しさをチェック。第3はコミュニティによる、ヘルスセンターで登録されている患者が実際に医療サービスを受けたかどうかのチェック。このシステムを支援する技術協力とあわせると、プロジェクトの25%程度のコストになっている。ただ、全体としてのコスト効率は以前のインプットベースよりははるかに良い。

• KPIを設定するときのコンセンサスをどうやって取るのか?

• ワークショップをやって、たたき台を出して意見を出したり、一から作ってもらったり。あまり政治的な意図は絡まないので、コンセンサスはとりやすい。より難しいのは、組織アレンジメント。ヘルスセンターに直接お金を渡すので、以前資金を受け取って管理する役割を担っていた地方政府は反対しがち。地方政府の役割も明確に定義して、その結果に対して資金提供する仕組みを併設することが有効。

• ソリューション・バンクはコンサルに聞こえるが、お金はどう絡めるのか?

• 最近は、世銀がお金をもらってコンサルするケースもある。ただ、世銀の強みのひとつはお金を出せることなので、コンサルと資金の両方出せることが強みになるはず。例えばナイジェリアでは、経営コンサルティング会社がゲイツ財団からのお金でコンサルをしているが、民間のコンサルティング会社は短期間で特定のニーズに応えるモデル。世銀は、現地に根を張って長期的な視野で取り組める強みや、資金を出せる強み、他分野にわたる知識の蓄積など、途上国のサポート役として必要な要素が総合的にそろっており、その使い方次第ですごく大きなことができると思う。

• 民間セクターの役割は?

• ナイジェリアでは民間が6割をカバーしており、非常に大きい。ただ、世銀も含めた伝統的なドナーは公的セクターばかり見てきた。今、世銀はIFCと組んで大きいことができないか探っている。

• 現場の前線でこそ見えてきた、世銀が改善すべき点は?

• 世銀でしかできないことを生かして国のプライマリーカウンセラーになるには、現場にもっと人を送ることが必要。また、結果志向のマインドセットを持った人をどう雇えるか。今いるスタッフをどうやって結果志向のマインドセットに変えられるか。ソリューション・バンクという概念は、現場のニーズにこたえること。世銀の前線で活躍するスタッフの不満は、国のニーズに対して、資金も含めて、迅速に答えられるシステムが弱いこと。
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ワークショップ後はネットワーキング等々を目的とした懇親会が行われました。
会場参加者は約20人、Ustream閲覧者は約30人でした。ご来場、閲覧して下さった皆様、誠にありがとうございました。今後もよろしくお願い致します。

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DC開発フォーラム

Author:DC開発フォーラム
ワシントンDC開発フォーラムでは、DC在住で開発に興味を持つ若手プロフェッショナル、大学院生同士の意見交換・交流を深めるためのワークショップを開催しています。従来のBBL(ブラウンバッグランチ)が専門家を招いてランチの時間を利用して討議をするのに対し、ワークショップでは20代・30代を中心とした若手に平日の夜を利用して発表の場を提供し、自由活発に議論を交わし、そして何らかの行動に結び付けていくことが狙いです。参加希望・お問い合わせはdev.forum.workshop@gmail.comまで。

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